発表のポイント:

  • 肝臓がんや肺がんのがん抗原を認識し結合する抗体と抗原の結合を強めることに成功、結合強化の新しいメカニズムを分子レベルで見出しました。
  • 結合力を向上させたアラニン(注 1)は極めて繊細な抗原抗体界面の調節で相互作用を強化しており、その相互作用には界面の水分子が重要であることを見出しました。
  • 本研究で明らかになった抗体の結合力の強化は、がん治療のための抗体医薬品開発につながり、合理的に抗体を設計していく指針になると期待されます。

発表概要:

東京大学先端科学技術研究センターの山下雄史特任准教授、藤谷秀章特任教授、浜窪隆雄教授(研究当時、現:日本医科大学先端医学研究所 教授)、大阪大学大学院工学研究科の溝端栄一講師、大阪大学大学院薬学研究科の井上豪教授、東京大学医科学研究所の長門石曉特任准教授、渡部貴大大学院生(研究当時)および東京大学大学院工学系研究科の津本浩平教授らによる研究グループは、抗体が抗原を結合するメカニズムを新しい研究アプローチで究明し、その結合力を飛躍的に改良する手法の開発に成功しました。

抗体医薬品は、がんをはじめとした疾病の治療薬として利用されています。がん抗原に強く結合してがん細胞を効率的に破壊する抗体を設計することは、抗体医薬品を開発する上で重要な課題です。本研究では、大型放射光施設「SPring-8」を利用して、肝臓や肺のがんに存在する抗原に結合した抗体の結晶構造を決定することに成功しました。構造情報に基づいて特定のアミノ酸をアラニンに置換した抗体と抗原の結合力についての精密な熱力学解析をおこなったところ、最大で 30 倍高めることに成功しました。さらに、スパコン「京」「TSUBAME」を利用した分子動力学シミュレーションにより、抗体の抗原認識の分子メカニズムの詳細を解明しました。本研究の成果は、人為的に抗体を改良するための新しい合理的設計戦略を提示するものであり、抗体医薬品の開発の加速化につながると期待されます。本研究は2018年12月27日付で米国の科学雑誌 Structure オンライン版に掲載されました。

詳細:http://www.eng.osaka-u.ac.jp/ja/dat/news/1546828743_1.pdf