セルロースは温かい断熱材料?

 セルロースは、紙や衣服として私達の身の回りで古くから使われている天然の高分子材料です。コットン製のタオルやダウンコート、ホットコーヒー用の紙カップ(スリーブ)、あるいは家屋の壁や天井に充填する建材セルロースファイバーなど、セルロースは様々な所に存在します。これらはすべて、熱を伝えず保温する用途、つまり「断熱材」としてセルロースを用いています。

 このような断熱材の特徴は、空気を多く含むフワフワした多孔構造をもっている点です。空気の熱伝導性は非常に低いため、低密度の材料ほど断熱的になります。また、プラスチックに代表される高分子材料は、鎖状に長く連結した分子構造を持つため、並んで結晶化しにくく、非晶性構造の部分を多く含みます。この非晶性構造は、熱振動の伝搬を妨げる効果があるため、高分子材料は一般的に熱伝導性が低いことが知られています。セルロースも高分子の一種であることから、セルロース自身の熱伝導性も低いとずっと見なされてきました。

セルロースナノファイバー

 私達がいつも触れている紙は、植物の細胞壁を精製したパルプ繊維から作られます。この細胞壁の主成分であるセルロースは、幅が3~15 nm程度の極めて微細な結晶性ナノファイバーの形態を取っていることが知られています。パルプ繊維からナノファイバーをバラバラに解繊する技術革新が進み、現在、セルロースナノファイバーを大量に製造することが可能になっています。

 セルロースナノファイバーは、従来のパルプ繊維と同じく、高密度に成膜乾燥させることで紙を形成します。この紙は、ナノペーパーと呼ばれ、高い透明性を発揮します。繊維の径がナノサイズで、我々が見える可視光(波長400~800 nm)よりも十分小さいことに加えて、繊維間の空隙や紙表面の凹凸も同じくらい小さい場合に、ナノペーパーは透明な紙になります。またナノペーパーは、セルロースの結晶に由来して、高強度かつ高弾性率であり、温度変化に伴う寸法変動が小さく(低い線熱膨張係数)、さらにフレキシブルです。そのため、次世代のペーパーエレクトロニクスと呼ばれるフレキシブルな電子デバイス群の基材として有望視されている素材です。

実は冷たい?セルロースナノペーパー

 我々は、セルロースナノペーパーがプラスチックやガラスより高い熱伝導性を示すことを発見しました。特に、ホヤの殻から抽出したセルロースナノファイバーで作ったナノペーパーは、プラスチックの3~10倍の熱伝導性を示します。この高い性能は、ナノファイバーが伸び切ったセルロース分子鎖による高結晶体であることに由来すると見られ、セルロースの隠れた性能が明らかになりました。

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 セルロースナノファイバーは繊維ですので、長い方向によく熱を伝える、と予想されました。これを実証するために、デザートとして有名なナタデココを使いました。ナタデココも実は高純度のセルロースナノファイバーでできており、乾かすとナノペーパーになります。

 このナタデココは頑丈なゲルで、独特の食感のとおり、かなり変形に耐えることができます。すなわち、機械的に延伸させることで、千切れることなく中の繊維配向が変化します。一定方向に延伸して繊維を配向させたナタデココの切片を円形に密着させて、1枚の渦巻き状の紙を作りました。

 これを熱板にはさみ、渦巻き紙の温度分布を観測したところ、左右で温度分布が大きく異なる結果が観察されました。渦巻きの左側では熱が遠くまで伝わり、右側では近くまでしか伝わっていません。渦巻きの左側では配向繊維が縦方向に、右側では横方向に配置されていることから、繊維が並ぶと長手方向によく熱を伝える、という「伝熱異方性」が明確に可視化できました。

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熱を伝える紙の未来

 今回の結果によって、これまで断熱材と見なされていたセルロースが、初めて伝熱材としても活用できることが見込まれています。つまり、セルロースは断熱材から伝熱材まで熱を扱う用途に対して幅広く使えるようになります。例えば、フレキシブル電子デバイスの効率的な排熱が可能となる熱拡散シートや、人体に触れる衣服・寝具・医療器具類の熱感応部材(冷たさや暖かさをすばやく感じさせる部材)としての活用が期待されています。

参考文献

・Uetani, K.;  Okada, T.; Oyama, H. T., Crystallite Size Effect on Thermal Conductive Properties of Nonwoven Nanocellulose Sheets. Biomacromolecules 2015, 16 (7), 2220-2227.

・Uetani, K.;  Okada, T.; Oyama, H. T., In-Plane Anisotropic Thermally Conductive Nanopapers by Drawing Bacterial Cellulose Hydrogels. ACS Macro Letters 2017, 6 (4), 345-349.