プレスリリースより抜粋します。

『東京理科大学 理工学部 先端化学科 中山泰生講師は,自然科学研究機構 分子科学研究所,および千葉大学,高輝度光科学研究センター,産業技術総合研究所の研究グループとの共同研究により,分子を非常に規則的に整列させた有機半導体pn接合において,電子が素早くスムーズに動くことのできる「波動」的な状態※用語1になることを実証しました。こうした結晶性の良い有機半導体pn接合を製造する有機半導体エピタキシー技術※用語2は,波動的な電子状態を活用して効率的に発電できる,新しいタイプの有機太陽電池の実現を促す可能性があります。本研究成果は,米国化学会の「The Journal of Physical Chemistry Letters」誌に2019年2月15日付けでオンライン掲載されており,3月21日に「Supplementary Cover」論文として誌上掲載されました。』

研究の背景

  • 軽くて曲げられる有機太陽電池の実用化には,光電変換効率の向上が課題である
  • 有機半導体の内部で電子を動きやすくすることで,素子の動作効率を改善できる
  • 動きやすい電子は,規則的に並んだ分子の間に広がった“波動”の性質を示す

いわゆる「モノのインターネット(IoT)」が加速する現代社会において,低コストで設置場所を選ばない自立電源の必要性が増大しています。こうした意味で,軽くて曲げられるプラスチックの基板の上に,インクジェットのような省エネルギーで低コストな印刷プロセスでの製造が可能であり,しかも環境への負荷が大きい重金属元素や稀少資源を必要としない有機太陽電池は,潜在的に有望な産業技術として期待されています。しかし,現在の主流であるシリコン太陽電池など他の種類の太陽電池と比べて有機太陽電池は光を電気に変える効率(光電変換効率)が低く,その効率の向上が実用化へ向けた課題となっています。

一般の半導体太陽電池は,「pn接合」において負の電荷を持った電子と正の電荷を持った正孔(電子の“空席”)とが別々に引き離され,自由に動くことのできるようになった「キャリア」になることによって発電します。ここで,有機太陽電池におけるpn接合とは,電子を受け取りやすいアクセプター分子(n型有機半導体)と,電子を放出しやすいドナー分子(p型有機半導体)という異なる二種類の分子が組み合わさった界面のことです。つまり,有機太陽電池では,分子が太陽光を吸収してできる励起子※用語3が素子の中を移動してドナー分子とアクセプター分子の界面に到達し,そこで電子と正孔に分かれてキャリアを発生させ,そのうえで生成したキャリアを各電極へ高効率に輸送する,という複数の要件を満たすことが発電の必要条件になります。多くの有機半導体において,励起子はその寿命の短さから0.1ミクロン程度しか動くことができないとされています。このため,従来の有機太陽電池ではドナー分子とアクセプター分子を混ぜ合わせることで0.1ミクロン程度まで入り組ませた複雑な構造のpn接合(バルクヘテロ接合)を作ることが必要とされてきました。しかし,こういった複雑な構造では分子の並び方に乱れが多く,せっかく生成したキャリアが電極まで必ずしもスムーズに移動できません(図1左)。このことが,有機太陽電池において,その光電変換効率を損なう要因となっていました。

キャリアを素早くスムーズに移動させるためには,電子の状態が複数の分子にまで広がった“波”としての性質(波動性)をもっていることが必要です。有機半導体材料のなかで波動性を示す電子の状態を実現するためには,分子が非常に規則正しく整列した結晶の状態になっていなければならないことが知られています。逆に,分子が整列してキャリアが動きやすい状態になると,励起子が移動できる距離も長くなることが知られており,太陽電池としての利用を考えると一石二鳥の効果があります。つまり,理想的には,ドナー分子とアクセプター分子の両方が規則的に整列した結晶を形成し,両者のなかで実際に電子を波動的な動きやすい状態にすることができれば,有機太陽電池開発の大きな進展につながる可能性があります(図1右)。

実際に,バルクヘテロ接合型有機太陽電池の生みの親である分子科学研究所の平本昌宏教授らの研究グループによって,ドナー分子・アクセプター分子の結晶薄膜を交互に積み重ねた構造をもつ新型の有機太陽電池が最近提案されています。一方で,提案されている分子材料は,結晶化させるために電気を流しにくい蝋のような構造(アルキル鎖)の置換基を分子の外側に取り付けた構造を有しているため,p型半導体とn型半導体とが直に接合しているのではなく,薄い絶縁体薄膜によって隔てられているような構造を有しています。また,積み重ねた状態での分子の結晶性は明らかではなく,実際にキャリアが波動性を有しているかどうかも検証されていませんでした。

これに対し,本研究では,置換基を持たない“裸”のドナー分子とアクセプター分子からなる結晶性の良好なpn接合を有機半導体エピタキシー技術によって作製し,両分子間の界面における結晶構造を正確に決定するとともに,こうした高結晶性の有機pn接合の両側でキャリアが波動的な性質を示すことを実証することに成功しました。

出典:https://www.ims.ac.jp/news/2019/03/25_4278.html